遙かなる わがヨークシャー (Faraway My Yorkshire)

ヨークシャー・デイルズ (The Yorkshire Dales)

43 ジャーヴォ修道院 [ウェンズリーデイル] (Jervaulx Abbey, Wensleydale)

 ここからは、ウェンズリーデイルをさかのぼることにする。

 リーズから北へおよそ50km行ったところに、デイルといってもまだ谷間といった感じのしない平野部の、A6108号線沿いの草地のなかに、ジャーヴォ修道院の廃墟がある。
 修道院の廃墟の多くは、民間団体のナショナル・トラストや政府環境局のイングリッシュ・ヘリテッジなどに所有され、史跡として管理されている。しかしここの廃墟は、数少ない、個人が所有する廃墟である。
 派手な看板があるわけでもなく、道路わきに見落としてしまいそうな小さな案内板がでているだけである。道路わきの駐車スペースに車を止め、案内板にしたがって牧草地のわきを歩いてゆくと、ドライ・ストーン・ウォールにかこまれた廃墟がポツンとある。
 石積みの切れ間が廃墟への入口になっている。廃墟に羊が入り込むのをふせぐための腰高の木戸があり、そこに20ペンス(当時のレートで50円くらい)の入場料を入れる箱があった。そしてそのそばには、手作りのような簡単なパンフレットが置いてあった。ただそれだけである。
 この修道院はシスターシャン修道会のもので、1156年に建設がはじまり、1220年ごろに完成したとされている。
 この修道院の廃墟は、おなじ廃墟でも、とくに荒廃が激しい。ここにアビー(大修道院)があったとは信じられないくらい、小さな廃墟である。
 これには、じつは訳があった。ここの最後の修道院院長アダム・セドゥバーは、ヘンリー8世の修道院解散法に強硬に反対して、王をことのほか怒らせてしまった。そのため1537年に、彼に最後まで付き従ったもうひとりの修道士とともに、処刑されてしまった。そして、そのあと修道院は爆破され、見る影もないほどに破壊されたのである。
 名の知れたファウンテンズ修道院の廃墟にしても、いつ行っても人は数えるほどしかいなかった。もっとも、そのほうが廃墟にはふさわしい。いつ行っても観光客でにぎわっているようでは、興ざめである。
 はたしてジャーヴォ修道院の廃墟には、1日にどのくらいの人が訪れるのだろうか。ドライヴの途中でなんどか立ち寄ったことがあるが、人にあったことは一度もなかった。いつも、どこからか入り込んだ羊が2、3頭、廃墟のなかの芝草を食んでいるだけでだった。
 ジャーヴォ修道院の廃墟には、いかにも廃墟然として何かを訴えたり、主張したりしているところがない。自然に溶け込み、いまもゆっくりと少しずつ崩れているようである。ここには、ゆったりとした穏やかで静かな時間が流れている。
 まるでターナーの絵のようである。黄金色の夕陽のなか、崩れた壁の陰では、羊飼いの少年がまどろんでいるのではないか、との錯覚にとらわれたりする。
 ヨークシャー特産のブルー・チーズである「ウェンズリーデイル・チーズ」の製法は、ここにいた修道士たちによって完成されたと言われている。いま、このチーズは牛乳から作られているが、かつては羊の乳で作られていたという。はたしてそのころの匂いは、どうだったのだろうか。やはり「司祭様のおみ足の臭い」なのだろうか。


From here, I would like to go up along Wensleydale.

Jervaulx Abbey is located in lower Wensleydale, but as the dale is very shallow and broad there, it looks like the plain. The abbey was founded in 1156 by the Cistercians and completed in about 1220. As there are only small remains of the abbey, it is difficult to believe that there was a large monastery here.
Why was this abbey devasteted like this? The pamphlet says that the last abbot of here, Adam Sadbar objected to the Dissolution of the Monasteries and incurred the King's displeasure. Therefore he was hanged with a follower in 1537, and the abbey was then blown up and destroyed completely.
It is said the recipe of the Wensleydale cheese was perfected first by the monks at Jervaulx, it was then made from ewe's milk. How the cheese of those days smelled, I wonder. Did it smell like the feet of priest's?


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