遥かなる わがヨークシャー (Faraway My Yorkshire)
ノース・ヨーク・ムーアズ (The North York Moors)
73 ニューバラ・プライアリー ［コックスウォルド近く］ (Newburgh Priory, near Coxwold)
シャンディ・ホールから南東へ1・6kmくらい行ったところに、かつてフォーコンバーグ伯ベラシス家のマナー・ハウスであった、ニューバラ・プライアリーがある。ロレンス・スターンと同時代のフォーコンバーグ伯爵は、彼の数少ない理解者のひとりであり、パトロンでもあった。
このマナー・ハウスは、その名が示すように、中世のプライアリー、すなわち小修道院に起源をもつ館である。修道院の解散後、その建物と土地は、ヘンリー8世の礼拝堂牧師であったアンソニー・ドゥ・ベラシスに下げあたえられた。それ以来、ベラシス家のマナー・ハウスとして使われたきたところである。
19世紀に、婚姻関係からウームウェル家のものとなり、いまはその住居として使われている。
この館は、「壁の中にオリーヴァー・クロムウェルの遺骨が隠されている」との言い伝えがあることでも知られている。
1660年に王政復古がなってチャールズ2世（在位1660-85）が即位すると、彼は父チャールズ1世の裁判と処刑にかかわった者たちへの復讐をはじめた。そして、関係者の多くはすでに国外へ逃亡していたが、国内にとどまって者10名ないし12名を反逆罪で逮捕し、処刑してしまった。
クロムウェルは、1658年9月3日に風邪をこじらせた肺炎がもとで死亡し、ウェストミンスター寺院に護国卿として埋葬されていた。しかし、チャールズ2世の命で彼の墓はあばかれ、遺体は絞首刑となり、さらに首をはねられた。そして頭蓋骨は、ウェストミンスター・ホールの前の旗竿の先に突き刺され、さらしものになった。
ところでそのほかの遺骨はというと、「バラバラにされて犯罪者用に掘った墓にうち捨てられた」ことになっている。
クロムウェルの遺骨にかかわる伝説とは、ここからはじまる。
彼の遺骨は、墓に捨てられる前の2日間、ロンドンはホルボーンのザ・レッド・ライオン・インに置かれていた。ところがそのあいだに、クロムウェルの三女でフォーコンバーグ伯トマス・ベラシスの2度目の妻となっていたメアリーによって別人の骨とすり替えられ、ひそかに持ち出されてニューバラ・プライアリーに運ばれた――というのである。そのあとメアリーは、マナー・ハウスの一つの部屋の、アーチ形の天井をもった小部屋の中に父の遺骨を安置すると、そこを石でふさぎ、上から漆喰を塗って固めてしまった――というのである。
もう一つ説があり、それによると、クロムウェルの遺骨は、壁の中ではなく、屋根裏に置かれた石棺の中に隠された――とされている。
20世紀になったエドワード7世（在位1901-10）がこの地を訪れたとき、うわさの「クロムウェルの遺骨」なるものを見てみたいとご所望だったという。しかしウームウェル家は、これを丁重にお断りしたそうだ。
もっともエドワード7世も本気で「見たい」と言ったのかどうかは分からないが。
1661年に封印されたという壁は、それ以来一度もあけて確かめられることもなく、沈黙したままである。
ほんとうにクロムウェルの遺骨は、このマナー・ハウスの中に隠されているのだろうか。もっとも、謎は謎のままとしておくほうが、いいのかもしれない。
ところでベラシス家は、ピューリタン革命のときは国王派であったが、ここに、かつての敵の娘と結婚するという、興味深い構図が見られる。
革命で敗北した国王派は、議会派にうばわれた土地などの財産を、婚姻関係を結ぶことでとり戻すことがあったというから、それかもしれない。
A mile to the southeast of Shandy Hall, there is Newburgh Priory, which
used to be the manor house of the Earl of Fauconberg, the patron of Laurence
Sterne.
The house is now owned by the Womwells. It is said that the headless remains
of Oliver Cromwell is hidden in the wall of "Cromwell's Room"
at this manor house.
I wonder whether the story is true or not. After the Restoration, the body
of Cromwell was dragged from Westminster Abbey, who was buried there as
Lord Protector, and hanged and beheaded at Tyburn by the order of Charles
II. Then the head of Cromwell was stuck at top of the pole in the front
of Westminster to be exposed, and the other remains were to be buried in
the hole dug for criminals.
The story starts from here. The headless remains of Cromwell were laid for two days at the Red Lion Inn, Holbone. Then , it is believed that Cromwell's third daughter Mary, who married Thomas Bellasis, Earl of Fauconberg as his second wife, exchanged her father's remains for other ones. Mary carried the headless body of Cromwell to Newburgh Priory and put it in the vault of one room and bricked it up . There is a inscription saying "In this vault, it is beliebed , are Oliver Cromwell's bones, brought here by his daughter Mary, Countess of Fauconberg, at the Restoration, when his remains were disinterred from Westminster Abbey."
But there is another story saying the remains were hidden in a sarcophagus
in the roof. Is Cromwell's headless body really in the wall or in the roof?
It is said that when Edward VII stayed at the house he wished to see the
remains of Cromwell. But the Womwells, who had held the estates since 1825,
refused the King's request.
As they have no will to open the vault, which was sealed in 1661, to confirm
the legend, the mystery will never been resoled forever. It might be good
that the secret is a secret, I think.
I heard the Earl was a Royalist. So it is curious for me that the Earl
married his enemy's daughter.